1 困った能力

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 そうだったかな……。少し考えて、智史は首を横に振った。 「それはないよ! あいつにもヒドイことを言ったことがあるけど、オレの胸が痛くなったことなんて、一度も無いよ! ぜったいタフなんだよ!」  今度は譲が、呆れたように首を振った。 「お前、変な能力があるくせに何も分かってないよな……。あいつは何を言われても、お前と話すことが、楽しくてしょうがないんだよ……」 「ん?」 「つまり、お前のことが好きだっていうこと!」 「ええー?」  智史は驚いた。自分と話している時、嬉しそうに見えたことなど一度も無かったからだ。というより、誰と話していても無表情で、愛想のないヤツだと思っていた。 「香取は、自分の気持ちを表に出すことが苦手なんだよ。文章を書くことが、自分を表現できる唯一の手段なんだ! だから、あんなに作文がうまいんだよ!」 「なるほどねぇ……」  智史は、すっかり感心してしまった。 「ところで、どうしてお前、そんなことが分かるの?」 「どうしてって……。オレには人の心を読む力があるからね……」  智史はドキッとした。が、次の瞬間手をたたいて笑った。 「人の気持ちが分かってたら、お前みたいにデリカシーのないことを言わないよ!」 「だよな……。本当は香取の日記を、こっそり見ちゃったんだよね。机の上に置きっ放しでさ……」  他人の日記をのぞき見るなんて、本当に常識外れなヤツだ。 「ところで、西房総中に入学したら、二小から知らないヤツが13人も来るんだろ? そいつらの性格が分かるまで、また当分、痛い思いをしなくちゃならないよな!」  譲は、智史の胸を指で突いてきた。 「ほら、やっぱりデリカシーがないだろ!」  智史は譲の頭を卒業証書の筒で叩いた。ポーンと、乾いた音がした。
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