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そうだったかな……。少し考えて、智史は首を横に振った。
「それはないよ! あいつにもヒドイことを言ったことがあるけど、オレの胸が痛くなったことなんて、一度も無いよ! ぜったいタフなんだよ!」
今度は譲が、呆れたように首を振った。
「お前、変な能力があるくせに何も分かってないよな……。あいつは何を言われても、お前と話すことが、楽しくてしょうがないんだよ……」
「ん?」
「つまり、お前のことが好きだっていうこと!」
「ええー?」
智史は驚いた。自分と話している時、嬉しそうに見えたことなど一度も無かったからだ。というより、誰と話していても無表情で、愛想のないヤツだと思っていた。
「香取は、自分の気持ちを表に出すことが苦手なんだよ。文章を書くことが、自分を表現できる唯一の手段なんだ! だから、あんなに作文がうまいんだよ!」
「なるほどねぇ……」
智史は、すっかり感心してしまった。
「ところで、どうしてお前、そんなことが分かるの?」
「どうしてって……。オレには人の心を読む力があるからね……」
智史はドキッとした。が、次の瞬間手をたたいて笑った。
「人の気持ちが分かってたら、お前みたいにデリカシーのないことを言わないよ!」
「だよな……。本当は香取の日記を、こっそり見ちゃったんだよね。机の上に置きっ放しでさ……」
他人の日記をのぞき見るなんて、本当に常識外れなヤツだ。
「ところで、西房総中に入学したら、二小から知らないヤツが13人も来るんだろ? そいつらの性格が分かるまで、また当分、痛い思いをしなくちゃならないよな!」
譲は、智史の胸を指で突いてきた。
「ほら、やっぱりデリカシーがないだろ!」
智史は譲の頭を卒業証書の筒で叩いた。ポーンと、乾いた音がした。
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