体温

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 ふたりは大学で出会った。国立大学の工学部。同じ授業を受ける姿を後ろから見ていて可愛いと思った。利也のひとめぼれだ。3年になって、偶然にも同じ研究室になった。そこでようやくお互いの名前を認識し合い、交際に発展するまで、そんなに時間はかからなかった。由莉香の方も、利也を見ては、なんとなくいいな、と思っていたからだ。  これはうれしい誤算だった。色恋沙汰に遠いイメージのある工学部で、早くも春を手に入れた。距離はあっという間に近づき、研究室に残り、研究を続ける、という利也の進路が決まったところでプロポーズをした。大学4年の秋だった。交際期間、2年と半年。お世辞にも高給とはいえない職で、彼女がオーケーを出してくれる可能性は限りなく低いと思われた。それでも、利也にとって将来を共にする相手は由莉香しか考えられなく、玉砕覚悟でのプロポーズだった。  アルバイトをして貯めた金で買った、安い婚約指輪を見て、由莉香は泣いた。泣かせるつもりはなかった。それだけショックだったのか、と、利也は狼狽したが、違った。うれし涙だったのだ。快諾してくれた由莉香を、利也は愛おしく思う。一生、大切にしたい。心からそう思った。  そんなわけで、婚約をしてから6ヶ月。卒業旅行も兼ねての婚前旅行だった。旅行代理店の組む、激安ツアーではあったが楽しかった。 「ねえ、喉、渇いちゃった」 「どこか喫茶店でも入る?」 「そうだなぁ……」     
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