体温

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体温

1. 「もー、ちゃんと撮れてるの?」  色を抜いた髪の毛を手で押さえながら江坂由莉香が不服そうに唇を尖らせる。ピンク色のグロスが妖しく光り、スマートフォンを持った平井利也は思わず頬が緩むのをセーブできない。  青い空に青い海。太陽がさんさんと降り注ぐ南の島を満喫するふたりに、周囲はあたたかい眼差しを向けている。彼らと同じように、仲睦まじいカップルが何組も見受けられた。  季節は夏。絶好のリゾート日和だ。肌を大胆に露出させた水色のワンピースをはためかせ、由莉香が利也に笑顔を向ける。可愛いな、と、素直に思う。なんて俺の彼女は可愛いのだ。こんなに可愛い子が他にいるだろうか。世の男どもよ、幸せを手にした俺を呪うがいい。  利也と由莉香は結婚を約束していた。これはいわば、婚前旅行と言える。彼女の左手には婚約指輪が光り、幸せそうにはにかむ姿は初々しい。見た者、誰もが喜びを共有できる笑顔だ。     
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