3 障害と勘違い

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『私の両親も寛容なほうですが、さすがにただならない事態と見たのでしょう。貴方との交流を一切禁じるように言いました。  その時にはようやく、貴方の両親がかつて私の両親に、しつこく言い寄っていたことも思い出したようです。  負け犬同士が結託して、復讐でも企んでいるのではないかと思ったようでした。  自分たちの息子を使って、こちらの娘を誘惑しようとしたのではないか、と。  もちろん私は一笑に付しました。それでも両親は心配していました。ですから私が貴方に対して感じている率直な想いを手紙に綴り、それを両親に見せたうえで、貴方に送りつけることになったのです。  それでも貴方は物わかりが悪いので、私の真意を理解して頂けないでしょうから、最後に注文を申し上げておきます。  以後こちらから送る手紙は、一枚残さず保管して頂いて、一度読んでからも、もう一度全部きちんとそろえた上で、また読み返してください。  それでもなお、貴方ののぼせあがった頭脳には、全く意味が通じない可能性がありますから、何通目の何枚目に何が書いてあるのか暗記するぐらいで丁度よいでしょう。  いっそ逆さまからでも読めるぐらいに、何度も何度も見返して頂きますよう、くれぐれもよろしくお願い致します。 敬具』  終わりである。  やはり手紙の文面からは、激しい憎しみが感じられた。特に最後の部分などは、どれだけ祖父の思い込みが激しかったのかを意味しているのだろう。  たとえはっきりと「あなたが嫌いだ」と言われても、「口ではそう言っているが、実は好きなんだろう」と前向きに解釈してしまうような人間だったのではないか。 それは今でも変わっていないのかもしれない。祖父は得意げに微笑みながら、僕の感想を待っているようだ。 けれどもさすがに正直なところは言えない。とりあえずまだ他にも手紙はあるので、それらを一通り見てからにしようと思った。  一通目は最悪の手紙だったが、ここからだんだんと印象が変わっていくのかもしれない。いや、きっとそうに違いない。そうであってくれと願った。
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