4 明かされた秘密

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願いは叶わなかった。どの手紙を読んでも、祖父に対する悪口雑言が書いてある。外見や性格はもちろんのこと、言動の一つ一つを具体的に取り上げてけなしてあり、それがいちいち切れ味が鋭くて、全ての便箋を読み終えるころには、なんだか不快を通り越して小気味よく感じられたぐらいだ。 そのとき僕の肌が総毛立った。祖父はひょっとしたら、そういう趣味だったのではないか。けなされることに快感を覚える性癖があり、一方で祖母はけなすことに歓びを覚える人間だったとすればどうだ。 けだしお似合いのカップルではないか。そう考えれば全てのつじつまが合ってくる。祖母の罵詈雑言は、祖父にとってストレートな愛情表現であったのだ。そんなストレートではない二人のやりとりは、ストレートな人から見れば破局としか思えない。つまり彼らの両親は、この手紙を絶縁状としか読まなかっただろう。 僕だってそうである。あくまでも祖母の悪口の威勢の良さだけに対して感心したのであり、それを言われる祖父に感情移入して、快感を覚えたなんてことは全く無い。けれども否定しようとすればするほど、自分の中に存在しているあるものが、嘘を見抜くように冷笑しているのを感じた。 そいつは遺伝子だ。祖父母の性癖の一部は、孫である僕にも当然受け継がれている。それは絶対に否定できない。 祖父はまさにその事実を認めさせようとしたのではないか。この手紙を読ませることで、孫が自分の後継者かどうかを判断しようとしたのだ。するとマゾヒストがもう待ちきれないというように、低い声で訊ねてきた。 「どうだい?」
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