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祖父はテーブルの上に、手紙の分厚い束を置いた。そうして満面の笑みを浮かべながら、僕にこう言った。
「これがわたしとおばあちゃんの円満の秘訣だよ。まだ結婚する前、付き合っていたころにもらった恋文で、たいへんに情熱的な愛情が、とても率直に表現されていたんだ」
ラブレターらしい。それにしては、見た目がちょっと味気なかった。
封筒はまっしろな官製品で、二十通はあるだろう。宛先も差出人もむろん全て同じで、手書きで書かれているのだけれども、その文字がまるで活字みたいに整っているので、なんだか役所からきた督促状みたいに見える。捉えようによっては率直さの表れと言えなくもなかったが、少なくとも情熱的とは言いずらかった。
「どうぞ、読んでみるといい」
そう言われて、僕は中身を出してみた。やはり白い便箋が、折りたたまれて入っている。紙自体はやや洒落たもので、縦書きの朱色の罫線と、欄外に鶴の挿絵が入っていた。
けれどもそれがかえって奇妙に思われた。なぜなら便箋に綴られた文字が、封筒に書かれたものと同じように、やたら丁寧に書かれていたからである。しかも文字は殆ど改稿されず、びっしりと行を埋めているのだった。
日付の最も古いものを読んでみた。
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