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『前略 時下ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。
さて、「お喜び申し上げます」と書いたところで、私は非常な違和感を感じています。なぜならば、私は貴方が「ご清栄」であることなど、これっぽっちも願っていないからです。
事実はまったくの逆で、私は貴方の「ご遺影」を見たいものだと思っています。
つまりはっきり申し上げて、貴方がこの世からいなくなればいいのになと願っているのです。
どうしてそんなことを書くのだ、と貴方は仰るでしょう。
貴女と私は結婚の約束を取り交わした仲ではないか。と、まるで三日間何も食べていない野良犬みたいな声で言うに違いありません。
ですから私は申しましょう。あなたの全てが嫌いになったのです。今まで貴方に対して好感を抱いていた部分が、手の込んだ刺繍の裏地みたいに、全てが醜悪なものに見えたのです。
この手紙では、それを一つ一つ念入りに、余すところなく書いて参りたいと思っています』
あまりラブレターっぽくない。
むしろ文面通り率直に受け取るならば、絶縁状と呼んでも差し支えなさそうな内容に思われたし、無機質な字と相まって、情熱というか激情のようなものがひしひしと伝わってきた。
けれども手紙の持ち主は、仏像のように恍惚とした表情である。そればかりか頬を赤く染めて、小鼻をやや開いた様子は、誇らしげにさえ見えたのだった。
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