2 なれそめ

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 確かに祖父と祖母は、いつだって仲が良かった。 近所でもおしどり夫婦として評判だそうで、孫の僕から見ても、二人はいつもお互いに、愛情深く接しているように思われた。その印象は、夏休みに何日間か泊めてもらって観察しても変わらなかったのである。  高校に入ってすぐの夏休みも、僕は祖父母の家に泊めてもらった。都内でもわりにレベルの高い学校に入れたので、食卓にはお祝いのごちそうが並べられた。そうして祖母が普段は飲まないお酒を飲み、いつもよりも早めに眠ってしまった夜、祖父は何か思いついたように席を立ち、自室から封筒の束を携えてきたのだった。 「わたしがおばあちゃんが初めて出会ったのは、ちょうどおまえと同じ年のころだったよ。あれは年初めのパーティーのときだった。帝一ホテルの一番大きな会場に、各界の著名人と家族が呼ばれててね。そりゃあ豪勢なもので、料理はおいしいものばかりだし、参加者にはテレビに出ているような芸能人もいて、演出も歌あり話芸ありと飽きさせなかったから、わたしも毎年楽しみにしていたんだ。おまえにも見せてやりたかったなあ。きっと度肝を抜かれると思うよ」  僕は話そのものに度肝を抜かれた。正月に毎年一流ホテルでパーティーを行っていたなんて、まるで上流階級ではないか。  うちがそんな家系だなんて、聞いたこともない。祖父母は父方なのだけれども、父もごく普通の会社員で、パーティーという単語すら口から発したことはないぐらいだ。  祖父母の家も、はっきり言ってみすぼらしい。都内の一軒家とは言っても、地理的にはほとんど郊外に近いし、そんな街でもさらにすみっこの、家同士がひしめくように建っているところに住んでいるのだ。  正直なところ、祖父の話を疑ってしまった。いよいよ遠くなってしまったのかもしれないとも思った。年齢的にはありえることだ。けれども眼の光を見る限りは、いつもと変わらない色のようにも思える。もう少し黙って聞いてみることにした。
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