2 なれそめ

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「そんな会場のなかに、わたしと同い年ぐらいの少女がいたんだ。  なみいる女性たちの中でもひときわ輝いていてね。最初は女優か歌手かなと思ったけれども、手持無沙汰そうに一人でいる。  こっちも招待客の一人とはいっても、繊維会社の社長の子倅だから、著名人にも知り合いなんていない。自然と向こうもこちらを見る。  目と目が合った瞬間だ。いわゆる一目惚れというやつだね。体がガタガタっとトラクターみたいに震えるんだ。それが家に帰っても続いて、三日目の朝にようやく止まった」  その点については疑っても間違いないだろう。祖父は興に乗ってきた様子で話を続けた。 「声をかけようとしたけれども、十六歳の少年にそんなことはできやしない。その娘を見ているだけで、パーティーは終わってしまった。  さあ、そこからが大変だよ。ごはんも食べる気がしないし、夜もろくに寝られない。日に日に元気がなくなっていって、とうとう床に臥せってしまった。両親にも打ち明けられない。  そこで親父が一計を案じてね。会社の若い社員で、わたしも仲の良かった市蔵さんという人が、話を聞きに来てくれたんだ。その人にぜんぶ打ち明けたら、たちまち彼女が誰なのか分かったっていうわけさ」  なんだか落語みたいな話である。ますます作り話めいてきたなと思ったら、祖父が声の調子を落とした。
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