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「ところが喜んだのも束の間だよ。
市蔵さんによれば、彼女とわたしが付き合うことは、旦那さまと奥様が絶対に許さないだろうと言うんだ。
むろん訳を聞いたら、確かにただならぬ因縁があった。
なんでも彼女の両親とわたしの両親は知り合いで、わたしの父は彼女の母親に、わたしの母親は彼女の父親に、それぞれフラれているらしいんだね。
しかも、かつて付き合っていたとかではなく、告白しても体よくあしらわれたらしいんだ。
そうしていわば恋愛強者同士が結婚して彼女が生まれ、恋愛弱者同士が結婚してわたしが生まれたというわけだ。
したがってわたしが彼女に恋をするのは、ほとんど必然だったというわけだね」
じゃあフラれるのも必然なのではないか。
けれども祖父と祖母はじっさいに結婚して、幸せな暮らしを営んでいる。だから何かよほどの出来事があったのだろうと思って、自分が祖父の話を信じかけていることに気づいた。
僕は感情移入をしていたのだ。祖父が恋愛弱者の家系ならば、むろん父や僕だって受け継いでいることになるだろう。その心当たりは充分にあって、父は見るからにモテなさそうだし、僕だって恋愛には縁遠い衆生だ。
もう話の真偽はどっちでもよいような気がした。それに手紙のことも気になる。祖父は猪口を傾けると、口もとに微笑を浮かべながら、誇らしげに語った。
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