2 なれそめ

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「そうやってわたしは地下水のように純粋な恋心を育んでいた。  その水脈はけして人目に触れることなく、這うような速さで地下を巡っていたが、不意に別の水脈とかちあったんだ。  それがなんと彼女のものだったんだね。  すぐにわたしたちは合流し、互いの清い心を通わせ合うようになったというわけだ」  いきなり詩的になった。ドラマティック過ぎて、具体的な事情がさっぱり分からない。話し手はもう悦に入ってしまっているので、聞きただすわけにもいかなかった。仕方なく相槌を打ったけれども、聞き手の姿なんて目に入っていないようである。どうせ見えないなら僕も酒でも飲んでやろうかと思ったら、祖父はまたにわかに表情を引き締めた。 「しかしそうなってはもう溢れ出る想いを隠すことはできない。わたしたちの関係は互いの両親が知るところとなって、猛反対を受けた。  わたしにも彼女にも、二十四時間体制で監視が付けられ、自由に行動することができなくなってしまったんだ。  けれどもむろん心まで縛り付けることはできやしない。    わたしたちの愛はますます燃え盛り、唯一の味方である市蔵さんに頼んで、彼女から手紙をもらえるように取り計らってもらったんだ。  そのころに受け取った愛の記録だよ」  と、祖父は封筒の束を見た。ようやく問題の手紙にまで話が進んだ。さっきの続きを読んでみる。
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