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そう言って部屋の奥からすっと、昔から愛用していた銀の鎧を取り出す。
しばらく使っていなかったはずの鎧は新品同様に磨かれていて、サイズも今の私用に調整されていた。
「ありがとう、フィル」
私は短くお礼を言うとすぐにその鎧に腕を通し、完全に重装備となる。
「玄関に馬を用意してあります。それに乗ってお逃げください」
「ありがとう」
私とフィルは玄関に向かって走り出し、急いで馬にまたがる。
「ここから北の山中に向かうとかつて大奥様が使っていた小さなおうちがあります。ひとまずはそちらに向かってください」
「ありがとうフィル。あなたには最後まで……迷惑かけっぱなしね」
私は今までずっとフィルと過ごして、家族同然だと思っている。
最後に思い出をいくつか思い出してしまい、涙があふれた。
「泣いてはいけません、お嬢様。お嬢様は、笑顔が似合っているのですぞ。最後位は笑顔で見送らせてください」
「……そうね。ありがとう、フィル」
涙を拭いて、最後のお礼を伝える。
「いえいえ。わたくしはいつでもお嬢様の味方ですぞ」
そう言って私に微笑みかけてくれるフィルの姿が今はとても悲しそうに見えて、私は精いっぱいの笑顔を向けて馬を出発させる。
馬は徐々にスピードを上げ、どんどん家が遠ざかっていく。
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