40人が本棚に入れています
本棚に追加
俺は、いま彼女を見て思ったことをありったけ話した。いい話を言ったと自分でも思うが、嘘は言っていないつもりだ。実際、このままでは彼女は確実に悪い方向に向かってしまう。それは見て見ぬふりできない事実であるし、気づいてしまった以上見過ごすわけにはいかない。寝覚めが悪くなっちまうしな。
「……ありがとう。少しは元気出たわ。貴方もなかなか壮絶な人生を歩んでいるのね」
目の前の少女は一度、首を軽く振ってそれまで浮かべていた悲しそうな顔を笑顔に変えると、明るく微笑みながらそう言った。
「ああ、なかなかにな」
振り返ったロマーネという少女と目を合わせると、やがてどちらが先にというわけでもなく笑いがこぼれる。
ふふふ、と笑う少女の笑顔はまるで太陽のようにまぶしかった。
3
どうやら俺の領地はそれほど遠くはなく、行商人や観光客などでにぎわう通りまではあまり時間をかけずに到着した。
「ここの通りをまっすぐ行ったところまで頼む」
「了解です」
俺の指示を聞いたロマーネは人通りが少なくなった辺りでペースを上げ、ほどなくして屋敷までついた。
「すごく大きいですね……」
「そうか? 別に普通だと思うが」
屋敷に着いた俺たちは、二人で全く別の反応を示していた。
隣にいるロマーネは俺の邸宅を見上げ、嘆息している。その隣で俺は、この屋敷に対して懐かしさを覚えている。
俺たちは別々の感想を抱きつつ、そっと屋敷の扉を開ける。
カギはかかっていない。
俺はそのことに不信感を抱きつつ、扉を大きくあけ放つ。
最初のコメントを投稿しよう!