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現在の俺は就職活動に勤しむただの新卒としてこの身を削っている。すでに自宅には不合格通知が両手の指じゃ数え切れないほど積まれていて、バイトでその日の生活をしている状態だ。
異世界で発揮していた異能力も怪力も、今の俺には何一つない。そこらへんを探せばすぐに見つかるようなただの青年である。人々の目にとまることもなく、背景に溶け込んでいる。
この六年間、何度あの世界に戻りたいと思ったことか。しかし、願いなど所詮人の思い。俺の心など関係ないように時間は進み続ける。
もう考えるのは止めよう、そう考え待合室から出た。
今日何度目かの面接番号の呼び出しの放送が流れ、ついに俺の順番が来た。俺は恐る恐る面接会場の扉をノックし、入った。
面接会場には面接官が机を挟んで三人座っている。
面接官に自分の名前を告げようと口を開いた瞬間、俺の全身をある違和感が襲った。おそらく熱中症だ。頭がぼーっとする。
遠のく意識の中、俺は一つの考え事をしていた。
――こんなことになるなら、昼食は唐揚げ定食じゃなくて豚骨らーめんにしておけばよかったなあ――と。
第一話【そして英雄は】
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