引きずり込む

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こうして無謀にも直球で先生に聞いてるのは半分は自分でもどうしたらいいか分からないから。もう半分は生徒としての立場を利用した甘えだ。恋愛なんてよく分からないけれど、この攻め方がイレギュラーなのは分かってる。実はこの数日、俺だって色々勉強した。年上のおとし方だとか、教師にモテるにはとか、そういう下らないサイトを真剣に読み漁ったのだ。 その結果、こうして直球勝負に持ち込んだのはシンプルな理由だ。いや、考えてみ? 授業中に見つめてサインを出すだとか、校則を違反してみるだとか、そういうので太刀打ち出来る気がしないんだもん! 「……俺が先生のものになってもいいけどさぁ」 ちら、と先生を覗くと楽しそうに視線だけで続きを促してくる。もう既に俺のもんだろと言われても不思議ではないぐらいの余裕っぷり。まあそうなんですけども。 「俺にとって先生は先生だけだけど、先生の生徒はいっぱいいるでしょ」 授業中に生徒に見つめられても、授業をしているんだから当たり前だ。校則違反なんか、秋吉先生に回されて終わり。あんまりだ。好きだから、そう思う。先生にとっては普通のこと。 俺のものになってしまえば、俺の言葉が、行動が、特別に写るはず。そう在りたいのに、俺には術がない。 「俺の立場って、難儀なんだよね」 ふぅ、と溜息を吐くと同時に先生が声をあげて笑った。え、なにウケ? なにその屈託のない初めて見せてくれた笑い方。ベリーキュート、ベリーサンキューなんですけど。 「ふ、そりゃ、難儀、だな」 笑いすぎてオウム返しですらまともに言葉にできてない。そんな笑う? 結構真剣にそう思ってるんだけどな。 文句を言ってやろうと思ったけど、自分で言ってまたヒーヒー笑ってる先生に釣られて俺も口元が緩んでしまう。あーカワイイ。脳内ではスマホのゲームの様に先生の笑顔のカードが俺のアルバムに新規追加されていく。ぜひともコンプリートしたい。 「あーウケた。地下アイドルみたいな気持ちだわ」 「地下なんだ」 「そこは謙虚にな。 ……お前は、そのままでいいよ」 ふ、と目を細めて優しく笑う。ああ、また新規カード。笑顔の衝撃に耐えられず、言葉の意味が理解できないまま、そんな間抜けなことを思った。
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