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良い先生
義務教育が終わって高校生活も2年目、適当な過ごし方を覚えてきた今日この頃。まあまあの高校でまあまあの成績、この顔と気さくな振る舞いで人気だけはそこそこ。友達も多いし知り合いも多い。でもどれもこれも大したことはない。友人はいても親友はいない。人に囲まれようと行動してる癖に人が好きじゃないなんて、自分でもどうかしてると思うけど、それが事実なんだからしょうがない。こんなの誰に相談するわけにもいかないし?
「柊木くん」
突然自分の名前が降ってきて、ぱ、と顔を上げた。中途半端な田舎の中途半端な進学校、無駄に体育会系の先生が揃っている中で誰に対しても丁寧な言葉遣いなのはこの人だけ。
「僕の話、分かりづらかったですか?」
眉を下げて、武岡先生が覗き込む。いつ見てももっさいメガネ、でも嫌いじゃない。一人称が僕なのも、女子にも男子にもきちんと敬称を付けるのも、俺なんかに敬語を使うのも、似合ってる。
「ごめん先生、考え事しちゃって」
「質問に来たのは君なのに」
「ごめんなさい」
「ふふ、いいですよ。勉強は一旦中断して、お悩み相談タイムにします? 」
僕に出来ることがあれば、と、親身になってくれる良い先生。あー優しい。染みる。放課後の馴れ合いがうざくて適当に授業の質問に来ただけなのに。
「お悩み相談タイムって」
「柊木くんには必要ないですかね」
「そんなことないよ。でも本当にしょうもないからさぁ、人に言うことでもなくて」
「いいんですよ」
にこり、先生が笑う。
「それも仕事ですから」
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