水着消失事件

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あれは小学校3年生のときだった。プールの授業の前に裕子(ゆうこ)ちゃんの水着がなくなるという事件が起きたんだ。 教室で裕子が急に泣き出したことから事件は発覚した。 7月の暑い暑い夏の教室は、裕子の熱気でより暑くなり、僕はその光景をただただ無言で見ていた。 体育の授業がはじまるまで、あと5分だった。 裕子が泣いていることにみんな気にしながらも、クラスメートはひとり、またひとりとプールへと向かう。教室に残っている生徒の数は、10人ほどになった。 僕もプールに向かわなければならない。 裕子のことは心配だけれど、僕がプールにいくことが遅れたら、先生からきっと怒られる。 僕がプールに向かおうとしたとき、同じ教室内にいた哲也が裕子に向かって歩き出した。 そして哲也は裕子の前で立ちどまり「一緒に探そう」と裕子に言った。 哲也はそのあと「みんなで探そう!」とそういってクラス中に呼びかけた。 僕も哲也のその声の迫力に負けて、裕子の水着を探すことにした。 結局、クラスに残った10人で探したけれど、教室内から裕子の水着がでてくることはなかった。 始業を告げるチャイムはすでに鳴っていた。 しばらくして、担任の上田先生がやってきて 「おまえらー、プールに来ないでなにやってんだー」 と僕たちにいった。すかさず哲也が 「裕子ちゃんの水着がなくなったんだ。だから、みんなで探してたんだ」 と言った。 「あのなー、裕子の水着がなくなったんなら先生んとこ報告こいよなー。報告もなしに授業に遅刻していいと思ってるんか?」 「あのな、先生。裕子ちゃんの水着がなくなったのは学校の問題じゃないんか?報告とかいう前に、この事態を先生としてどう考えとるんや?」 「哲也、おまえは目上の人に対する口の利き方を知らんのか?」 先生の表情は鋭くなった。
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