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「僕は君を騙し続けて来た。君が毎日記憶を無くすのは、僕が君に暗示を掛け続けているから。君があの日の事を思い出さないように、今日まで傍で見張り続けて来たんだ」
「あの日……? 先生達が、うちに強盗に入った日の事?」
「……え?」
先生がその見開いた目を私に向けた。
自分の感情が分からない。
先生の目に映った私は、どんな表情をしているのだろう。
「先生の暗示ね、半年くらい前から効きが弱くなって来ていたの。そうしたらあの日の事も……私も覚えているわ、あの鮮烈な赤い海を」
「そうだったのか……じゃあ、どうして警察に突き出そうとしなかったんだ? 僕は全然気付いていなかったのに」
それを聞いて、私は激しく頭を振る。
「だって、先生は悪くない。やっぱりやめようって、先生はあの人を止めようとしていた。それに、私をクローゼットに隠して匿ってくれた」
「いいや、僕は罪人だ。いくら資金に困っていたからって、合田の誘いに乗って君の家に押し入ったのは事実だ。何よりも、君をずっと欺き続けて来た」
私は先生の震える肩を、ぎゅっと抱き締めた。
「ごめん……本当にごめん……」
「いいの。私は先生に感謝しているわ。少なくとも、暗示に掛かっている間は、あの地獄を忘れていられたのだもの」
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