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イヴの楽園の中心には、白く大きな建物がある―――そこが〝政府〟だ。
まるで世界が違うのだというかのようにイヴの楽園と政府の間には、暗くどこまでも続くかのような深い穴があり、唯一この二つを繋ぐのは、中央に掛かった白い昇りの階段のみである。
セツナは政府を見上げ、大きく息を吐く。
赤い瞳をぎらつかせて白い階段に一歩、足を踏み込ませれば。
「ゼンが来るかと思ったけど、彼はそこまで仲間想いのブラックではなかったかな」
カツン、カツン、と。声と共に足音が降り注いだ。
「・・・・」
ピクリとセツナの身体が反応する。先ほどまで気配はどこにもなかった筈だ。
「予想外、というほどではないかな。最悪ゼンとセツナが一緒に来ると思っていたんだ」
まぁ結果はセツナ一人だったけどね。
足音を立てながら政府から降りてくる男は、どこか楽しげで。けれどその手にはトンファーが握られている。そして隠せないほどの殺意を、セツナは感じていた。
「お前がカゲミナに手を出したグレイか」
「いいや、違うよ」
それに、お前呼ばわりはいただけない。
クツクツと笑いながらゆっくりと首を横に振る。
―――カツン、
セツナが踏み出した階段の一つ上の段で、彼は止まった。
「俺の名前はチェネシス」
腰を少し曲げ、セツナの赤い瞳を覗き込みながら微笑む彼の瞳は、
「宜しくね、ブラックのセツナ」
ブラックの赤い瞳とは真逆な、青い瞳をしているのだった。
~ * ~
「グレイ?何それ」
ゼンは目を細めながら首を傾げる。まだ彼の腕の中にいるセツナも内心で同じように首を傾げていた。
ブラックとホワイトの存在なら知っているが、それらを混ぜ合わせたような存在は聞いたことがない。
「いま言っただろう?ゼン。政府が作った対ブラックの人間兵器だと」
だがアザミはその存在は当たり前に在るかのように言う。それに、はいそうですか、と頷けるわけがない。
「いやいや待って、何で政府がそんなものを作るわけ?」
「政府の、裏切り?」
「裏切りではないよ、リオ」
アザミは笑う。
「ブラックの存在は戦争が終わったと同時に邪魔な存在だったんだ。私たちを排除する兵器が作られたって何の不思議もない」
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