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1.王弟殿下に求婚されました
「ユーリエ・ラインデッカー伯爵令嬢? 初めまして、『運命の人』よ。どうか私と結婚してください」
入学式後に移動した教室の出入り口で、金髪碧眼の美丈夫にそんなとんでもないことを言われた私は固まることしかできなかった。
まだ教室にはクラスの3分の2ぐらいの人数が残っており、他の教室からも顔が覗き、何事かと注目を集めている。私は一瞬真っ白になってしまった思考を無理矢理取り戻し、急いで現状把握につとめようとした。
目の前にいる、私より頭一つ分は背の高いキラキラした人は確か、コンセイト・ズーダー・ラキラキ・ガイーナ王弟殿下だったと思う。もう王族ってば名前長くて嫌。
この王弟殿下は先ほど、入学式の式場で生徒会役員として壇上に上がっていたような気がする。確か生徒会副会長と紹介されていた。そこまで瞬時に頭を巡らしどう断ったら角が立たないかを考え、
「お断りします」
る前に口が先に出てしまった。
しまった、と思ったが後の祭りである。周囲は凍り付いてしまったようだ。しかたなく貼り付けた笑顔のままで王弟殿下を窺うと、彼は楽しそうに笑んで言った。
「理由をお聞きしても?」
だめに決まっているでしょうととても言いたい。
「……殿下には婚約者様がいらっしゃるはずです」
「彼女には申し訳ないですが、婚約関係は私に『運命の人』が現れるまでと決まっていました」
なんですと?
「……私には婚約者がいます」
「そちらの家には謝罪と、婚約解消をこちらからお願いしたいと思います」
ぐうの音も出ないとはこのことである。それぐらい王族の言う『運命の人』とやらは絶対なのだと再認識し、頭が痛くなった。
しかも彼を見ていると頬が熱くなる。これが『運命の人』効果だろうか。出会ったばかりなのにその胸に飛び込みたくてしかたない。だが私はぐっと奥歯を噛みしめて耐えた。
「……何かの間違いです。わ、私は……殿下の、『運命の人』ではありま」
「……それ以上言うなら監禁しようか?」
顔をわざわざ低くして口元で言われた科白に、私は青くなった。王弟殿下の口元は笑っているのに目は獲物を狙う猛獣のようにギラギラしている。
まずい、と思う。
「こ、心の準備をさせてくださああああああいっっ!!」
私は瞬時に踵を返し教室のもう一つの扉まで走ると、そこから出て一目散に逃げ出した。
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