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古いフィルム
カスタム仕様のスキャナから、古い映画フィルムを取り出し損傷が無いことを確認する。黒い円盤型の缶に収納し、ラベルと画面のコメントに誤りが無いか照合する。
「昭和二十三年五月二十七日 神戸新開地交差点 撮影石島實」
昭和二十三年といえば、西暦一九四八年。七十年ほど前なる。第二次世界大戦が終わって三年と経っていない。二十七歳の加藤晴奈にとっては、想像も付かない。幼い頃に別れた父は、神戸の川崎造船所に勤めていたので、この場所を知っているかもしれない。読み込まれた映像では、多くの人々が行き交っている。繁華街と思われる。「聚楽館」の文字が見てとれる。映画やテレビ番組のポスト・プロダクション--最終加工を行うこの会社に勤める晴奈には、心当たりがあった。
「聚楽館って書いてあったかな」
一緒に映像をチェックしている、一年先輩の杉野が尋ねた。
「ええ。正しくはジュラクカンっていう名前ですけれど、誰もがそう呼んでいたらしいです。日本で最初に映画を上映したホールですね」
「俺たちにとっては聖地みたいなもんだな」
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