古いフィルム

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 この会社も元々は、映画フィルムの現像所だった。社員の半ばは映画好き、あとは音楽好きと機械いじりの好きなエンジニア。杉野は国立大学の画像工学科卒で、この全てにあてはまる。さらにコンピュータおたくでもあって、画像加工のためのツール開発に腕を振るっている。三十歳にもならないうちに、課長待遇のチーフエンジニアとして、このプロジェクトを率いている。  取り込んだ画像にツールで前加工すると、一瞬で画面に瑞々しい色彩が溢れた。五月にしては暑さを感じる陽射しと、高く青い空。力強い雲が湧いている。地上には人々が行き交っているが、背の高い建物は無く、遠くまで見渡せる。東京でも、時折、大規模再開発で広大な空き地が出現することがある。あの光景が街全体で起きているように見えた。父は母と結婚してすぐに造船所を辞めて、大手デベロッパーに移り、こうした空き地造りをやっていたらしい。都会に残された細切れの土地を買い集めて、再生させる。 「街はスクラップ・アンド・ビルドをしてこそ活力を持てるのさ」  屈強な体躯。張り出した頬骨から飛び出すような、ぎょろりとした目玉を楽しそうに動かして、父がそう嘯いていたのを記憶している。二十年前に別れた父親の消息は知らないし、良い思い出もない。子どもや妻のことを顧みない、碌でもない男だと思う。そんな父のことを、フィルムが思い出させるのが、不快だった。     
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