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【2】 彼女がくれた勇気
「ありがとう」
耳たぶに、温かな息が触れた。
しばらくそうした後、柔らかな身体が離れて、目の前に、化粧を落とした亮子の顔が現れた。
子どものようにくしゃっと笑うその笑い方が、僕の前でしか見せないものだと知っている。化粧をしていなくても、シワを気にせず思いきり笑っても、美しい亮子。
僕は彼女の親友なのだ。どんどん綺麗になる彼女に、僕が気づかないはずがない。
「…好きな人が、できたんだね」
たくさんの祝福と、ちょっとのさみしさを抱いて、僕は言った。
清らかな静寂の後、亮子は口を開いた。僕の名を呼んだ声は、既に涙で掠れていた。
今日、会った時から、ずっと上機嫌だった彼女。身体いっぱいに笑い声を詰めて、僕の下でぽんぽんと跳ねていた彼女。その笑い声の下にあったのは、たぷんと揺れるような涙。
わあ、と声を上げて、亮子は僕に抱きついた。
「誠、わたし、さみしい。誠、誠…」
少女のように、彼女は何度も僕を呼んだ。
「うん。俺も、寂しいよ」
少年のように、僕は何度も頷いた。
僕達は、二人きりになるといつも、少女と少年になった。そうして、自分の中に取り残されていた幼さに、優しくし合ってきたのだ。
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