63人が本棚に入れています
本棚に追加
タツオはすべてをあきらめ、全身の力を抜いて北不二演習場の高い秋空を見あげていた。ここにきてから、訓練と座学でスケジュールは過密でゆっくりと空を見る時間などなかったのである。雲は淡く白く空高く帯のように流れ、空の青さも夏のような濃さではなかった。自分は来年の夏も、こうして空を見あげることができるだろうか。本土防衛の決戦に敗れれば、「須佐乃男」とともに死ぬしかない。作戦部や五王重工の研究者のいうとおり、圧倒的に不利な戦局を回転させるだけの力が「須佐乃男」と自分たちにあるのだろうか。普段は心の奥底に閉じこめていた不安が、秋の雲のように浮きあがってくる。自分の死は犬死にならないのだろうか。こたえなどあるはずがなかった。未来のことは誰もわからないのだ。
そのとき、演習場にサイレンが鳴り渡った。訓練終了を告げる腹に響く低音のサイレンだ。タツオが考えたのは、まず勝利だった。まだジャクヤは撃たれていない。王将も隊旗を背中に立てたままだ。タツオの1軍はまだ戦闘継続中で、それでサイレンが鳴ったということは、ジョージの4軍が全滅して、残されたのは自分たちだけになったということなのだろう。
最初のコメントを投稿しよう!