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春が近づいてきた。校門前の桜は、昨日と変わらず美しく咲いているのだろう。ーーが、今の俺にはくすんで見えてしまう。
今日は朝からそこはかとなく嫌な気分になった。テレビを点ければ嫌がらせのように、乙女座の運勢が素晴らしいの一報。チャンネルを変えども変わらない結果に辟易する。
そして弟からは、昨日どうだったと悪気のない問いかけ。煩わしくて仕方ない。
うっとうしくなって家を出れば、視界にチラチラと映りこんでくるカップル。全てが腹立たしくて仕方ない。が、怒る気力もなければ怒る資格のない俺は、キャッキャと騒ぎながら校門をくぐるやつらに混じって校門をくぐる。
校門から100m近く歩く先にある校舎の入口までは桜がひっきりなしに咲いている。左手の運動場では、部活生が朝から汗を流し、色めいた青春を送っていた。昨日まで色がついていた俺にとっては、これらの景色が遠い景色のように感じる。今、目の前にその景色は広がっているのに。不思議な感覚だ。
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