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もし、勇者が正気であれば、恐らくアラインの蛇は見つけられていたのかもしれない。
だが、人間を殺してしまったと言う罪悪感と、周りの人達の目と、自身の中の恐怖心によって、彼には最早何も見えていなかった。
無事に蛇は人間どもの中に入ると、気づかれないように彼らの目と融合し、アラインが操作したように物が見えるように作り替えられて行った。
まず、この出来事の発端は魔族かもしれないと言う猜疑心を移す。
今までは勇者が魔族がやったと言う一言で皆が信じ込んでいた思い込みを、疑惑に移し替えた。
確信ではなく、なのかもしれないと思い込ませることが大事だからだ。
そして次に、「勇者が人間を殺した」と言う事実を鮮明に刻み込む。
人は目で見たことを信じる。
蛇によって目に再びその映像を再構築して見せて思い込ませる。
言わばマインドコントロールとほぼ同じ事なのだ。
そしてそれを僅か5秒で終わらせると同時に、彼らの目は不思議と全て、勇者に向けられた。
それは、「期待」等ではない。
明らかな「敵意」と「恐怖」が入り交じったような視線。
間もなくその視線に気が付いた勇者は、ゆっくりと当たりを見回した。
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