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今までは自分に対して「期待」が込められた、「救い」を求めるような視線だった筈なのに、今の彼らの視線は勇者が恐れていた「それ」だった。
息が詰まるような顔をし始めた勇者だったが、先程ケインの術によって操られた女が殺した衛兵の亡骸を見つけた。
勇「っ…ぃ……イングラ…さん…?」
女の歯によってその亡骸は右頬の顎のすぐ下から、喉笛当たりを食い破られて、死んで僅かな亡骸は未だに地面にトロトロと出血させていた。
だが、ぐるりと上を向いた目玉はちょうど勇者の方を見ているようで、しかしその顔は勇者にとって親しい者のようだった。
勇「ぃ、イングラさん!!」
周りの視線を無視して、逃げるように亡骸に飛びつく勇者。
ピチャッ…!
亡骸の前で膝を着いたことにより、己の服が血で汚れるのも厭わず、その亡骸にゆっくりと触れる。
イングラと呼ばれた亡骸は、かつて勇者がこの世界に初めて来た時から、ずっとそばにいて励ましてくれていた、友と呼べる側近の1人であった。
歳が勇者と近く、王の前以外ではたまに敬語抜きの会話をする親しい中であった。
今ではもう、声など聞えず、顔も見ないで言葉も発せられぬただの遺骸ではあるが。
勇「な、なんで…っ…誰が!?」
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