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吸い込んだ空気は湿気っていた。真上には今にも雨が降り出しそうな曇天模様が広がる。 右足、左足、右足。順番に力を込めながら、左腕の時計をチラリと見やる。千晃はもう改札に着いている頃だろうか。 「やっぱりバスに乗ればよかった」と少し後悔する。けれど、高校までの土手道をどこか彷彿させるこの真っ直ぐな並木道を、私は今日どうしても歩きたかった。千晃と歩きたかった。 土曜日。 昨日は眠れなかった、土曜日。 *** やっとの思いで駅前の駐輪場に着いた頃には、空は今にも泣きだしそうな様相を広げていた。かちゃんと鍵を回すと、大きな雨粒が灰色のアスファルトにぼたりと落ちた。 大きな雨粒だった。まるで目玉に薄く張った涙の膜が、まばたきによって堪えきれずに零れてしまったかのような。 ワンデータイプのコンタクトが眼球に張りついていた。大きくまばたきをしてから、駅の構内へと向かった。道路は色濃い灰色へと、あっという間に染まっていった。 「ごめんねー! 待った?」 秋色のキャメルのワンピースは、ミモレ丈。ふわりとひるがえるラインが昔読んだ少女漫画の衣装のようで、思わずマネキン買いをしたのだ。本当はもっとカジュアルな服装が好きだけれど、千晃はどちらかというと女性らしいラインを好む。流行りのワイドパンツなんかは絶対嫌いだろうから、彼の前では履かないことにしている。
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