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大きな声を出してスマホに没頭していた千晃の顔を覗き込む。手を取る。指を絡める。恋人つなぎをする。 「雨降ってきちゃってね、ちょうどターミナルにバスが来てるから、早く行こ」 有無を言わせずに歩き出す。新品のブーツはサイズが大きすぎたのか、一歩ごとに踵がゴリゴリと擦れていく。痛みで顔が歪む。けれど、立ち止まるわけには行かない。 「今日は、千晃が好きなハンバーグ作るね。アメトーク録画しといたんだ。あ、面白い動画もあるから後で見ようか」 自転車で来たことは伏せた。そんなことを言って、「じゃあ雨が止むまでコーヒーでも飲む?」と近くの店に入られでもしたら、きっと今日千晃がここに来た理由もそこで終わってしまう。 強引だなと笑う千晃の声が後ろから聞こえた。腕を引っ張りながら、ズンズンと歩いた。強く指を折った。ほどけてしまわないように。離れてしまわないように。 「あれ、そういえば髪染めた?」 水色をしたバスは乗り込んだ瞬間にプオンという音をたてて走り始めた。紫色の座席に腰掛けて、ようやく千晃の顔をまじまじと見つめる。 本当は一目見た時から気がついていた外見の変化を指摘すると、千晃は得意げな顔を見せた。その顔はやっぱり私がよく知った千晃で、ほっとする。可愛いと思う。明るい髪色も、とっ散らかったようにかけられたパーマも、全然似合っていないけれど。 「そーそー、大学生ぽくね?」 「うん、チャラくなった」 「大人びた?」 「チャラくなった」 いつも通りのやり取りを、噛み締める。
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