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「冷凍庫にアイスあるんだけど食べる? 塩バニラ好きでしょ、千晃。食べながらアメトーク見ようよ。あ、さっき言ってた動画でもいいけど」 千晃の手が優しく私の腕に触れて、彼の身体から私をそっと剥がしていく。 どっと笑い声が起きた。テレビがクイズ番組を吐き出し続けている。そうだ、二人でテレビを見ればいい。そして思い切り笑い飛ばせばいい。馬鹿な回答をしている芸能人を、こんなところで空気を凍らせている私たちを。 けれど、身体が動かない。 洗い物を終えたばかりの千晃の手は、ぞっとするほど冷たい。 「純夏」 名前を呼ばれる。千晃が向き直って私の前に立つ。その動きがスローモーションで脳内に流れていく。 ワンルームから漏れてくる明かりが、千晃の表情を照らす。 真っ直ぐに私を見つめる千晃の顔が、分厚いセロハン越しにあった。まだ何も言われていないのに、瞳の上には涙の膜がふるふると震えた。 たくさんの出来事を思い出した。「好きだ」と言われた時の夕焼け色の教室、2ケツが見つかって怒られた帰り道、初デートで行った映画館、手を繋いだ時の爆発しそうな心臓、文化祭のカップルコンテスト、目を閉じるのを忘れた初めてのキス、それから。嫌だ。これじゃまるで走馬灯だ。 聞きたくない。千晃の口がゆっくりと動く。まばたきをしないように堪えていたのに、眼球に張った涙は重力に負けて、ほたほたとこぼれた。
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