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ヘアオイルを髪に塗って、丹念にドライヤーをかける。ココナッツの香りのするボディークリームを手で温めて全身に広げる。仕上げにモコモコのルームウェアを着てから部屋に戻ると、千晃はベッドの下に寝転がって目を閉じていた。ベッドで寝ていてもいいと言ったのに、千晃は「ここでいい」と頑なだった。
「千晃」と呼んでも返事はなかった。
ローテーブルの上には、私の部屋の合鍵が置かれていた。私もそれに倣った。
テーブルの上の2つの鍵は、寄り添っているように見えた。電気を消すと、夜のとばりがふっと部屋を覆った。
眠っているわけではないのだろう。時折千晃のスマホが震えて、暗い部屋に仄かな光が灯る。その度に、千晃の身体はもぞもぞと動いた。
嫌でも、気にしてしまう。寝返りを打って壁を向いた。千晃の気配が部屋を揺らすたびに、身体はきゅっと固くなった。目を固く閉じる。自身を壁際に追いやったせいで、ベッドに空いたもうひとり分のスペースが、ぽっかりとした塊になって私の背を押す。
もし千晃がベッドのスプリングをしならせて、私の身体に身を寄せることがあっても、そのまま唇を貪っても、彼のために柔らかく仕上げた私の肌をまさぐっても、私は何ら構わなかった。そうなればいいとすら思っていた。
暗闇にふと射すスマホの光。千晃の息づかい。シンと張りつめた夜の空気が不均衡に震えるのを感じていると、不意に空気が薄くなって息を止める瞬間が何回かあった。その時に限って、堪えていた嗚咽がふっと漏れてしまって、死にたくなる。
泣きたいわけではなかった。泣き声は千晃を責めているように響きやしないかと思うと、タオルケットを握る指に力が入った。
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