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答えに詰まる時、黙っておきたいことがある時、事実を隠蔽したい時、彼は笑う。そして決まって左手で鼻をこする。嘘をつく時の自分の癖を、千晃は知らない。 私はもっと知っていることが多い。例えば、千晃がすでにその女とセックスしていること。その女が実家暮らしであることをいいことに、なし崩し的に半同棲状態になりかけていること。 千晃の部屋にこっそり仕掛けたビデオカメラが教えてくれたことだ。 最初はほんの出来心だった。 合鍵を使って彼の部屋に入った時に、大学の先輩からもらったのだという雑多なダンボールの蓋を開けた。年季の入ったパソコンと、オーディオコンポ、書き込みだらけの教科書。そんなものに埋もれて、古びた家庭用のビデオカメラが入っていた。 アルミで出来た銀色のラックの上に、さりげなくビデオカメラを置いた。帰る時にさりげなく録画ボタンを入れて、次に来た時に回収した。電池が切れるまで回り続けたカメラには、私の知らない女を家に連れ込む千晃の姿が映っていた。ネットオークションで小型のカメラを手に入れる決心をするには、十分な映像だった。
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