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コーネリアスは廊下を歩みゆく長身の友人の背にやっと追いつくと、そう吐き捨てる。
「見下げはてた」とでもいうような、慇懃な軽蔑をにじませて。
けれどもユージーンはといえば、常と変わらぬ、むしろどちらかと言えば、やや事務的と言った風な口調で、
「ならば我々が『談話室』を『読書室』として使えばいいのさ、コーネリアス」と応じた。
ユージーンの声は低い。
寄宿舎の同世代の少年たちも、皆、とうに声変わりを終えているとはいえ、ユージーン・マクラクランの声の音域の低さときたら、ひときわだった。
「だがね、ユージーン」と。
反論めいて口を差し挟むコーネリアスを、ユージーンは、穏やかに静謐な黒曜石の瞳でそっと押しとどめる。
「別段、構わないだろう? どちらが『読書室』でどちらが『談話室』かなど、ただの呼び名の違いに過ぎない。今、我々の用が足りれば、それでいいじゃないか」
そんなユージーン・マクラクラン一流の物言いに、コーネリアスは碧の目を見開いてみせた。そして、
「……まったく、君って男は、ユージーン」と、両肩をすくめ、長い金の睫毛を伏せる。
二人の少年は、「談話室」の扉を押し開け、ほぼ同時に中へと入った。
その部屋の方こそが、まさに「読書室」と呼ぶに相応しいような静けさが漂っている。
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