第1章 solitaire

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 ひと気は、まるでない。  ユージーンとコーネリアスは、無言のまま部屋の奥へと歩みを進める。  ふたりの靴音は分厚いウールの絨毯の毛足に吸い取られ、静謐を微塵も乱すことはなかった。    その時だった。  くぐもった呻き声が、かすかに、ごくかすかに、だがはっきりと部屋の空気を震わせた。  それに気づいたのは、もしかしたらコーネリアスの方が先だったかもしれない。  友人の歩みが止まったことに気づいたユージーンもまた、押し殺したちいさな声に気がついた。  声の主はどうやら、部屋の隅に数列だけ並んでいるマホガニーの高書架の奥の方にいるらしかった。  両側使いの書棚に並ぶ埃っぽい革装の本の隙間から、コーネリアスがそっと奥を窺う。    ひとりの生徒が、高書棚用のローズウッドの踏み台に腰を寄りかからせていた。  上級学年(シックスフォーム)制服(ジャケット)。  どうやら、コーネリアスたちより一学年上、「最上級生(アッパーシックス)」の生徒のようだ。  彼のくつろがせたスラックスの前に、少年が顔を埋めている。  下級生の制服だった。  十一年生か、もしかすると、まだ十年生かもしれない。  顔は見えない。     
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