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ひと気は、まるでない。
ユージーンとコーネリアスは、無言のまま部屋の奥へと歩みを進める。
ふたりの靴音は分厚いウールの絨毯の毛足に吸い取られ、静謐を微塵も乱すことはなかった。
その時だった。
くぐもった呻き声が、かすかに、ごくかすかに、だがはっきりと部屋の空気を震わせた。
それに気づいたのは、もしかしたらコーネリアスの方が先だったかもしれない。
友人の歩みが止まったことに気づいたユージーンもまた、押し殺したちいさな声に気がついた。
声の主はどうやら、部屋の隅に数列だけ並んでいるマホガニーの高書架の奥の方にいるらしかった。
両側使いの書棚に並ぶ埃っぽい革装の本の隙間から、コーネリアスがそっと奥を窺う。
ひとりの生徒が、高書棚用のローズウッドの踏み台に腰を寄りかからせていた。
上級学年の制服。
どうやら、コーネリアスたちより一学年上、「最上級生」の生徒のようだ。
彼のくつろがせたスラックスの前に、少年が顔を埋めている。
下級生の制服だった。
十一年生か、もしかすると、まだ十年生かもしれない。
顔は見えない。
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