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第1章 solitaire
1
「で、奴さんが何を身につけてきたかって?」
アルジャノン・ガーフィールドの囁き声が、読書室に響き渡る。
「『毛皮の外套』さ、それも毛足の長いね。まだ十一月にもならないっていうのに。真冬の夜会服の上に着るヤツだよ、君たち。随分と老人じみたことだと思わないかい」
「囁き」に込められた「声を潜めよう」という配慮は、所詮は見せかけのものに過ぎなくて。
ガーフィールドの声音は、その場に居合わせた皆の興味を、自ら一身に引きつけてやろうという野心を隠そうともしない朗々としたものだった。
椅子の上に丸まったり机の角に腰を置き足を組んだりと、思い思いの体勢を取り、座の少年たちはガーフィールドに視線を向けている。
そんな中、まるで薄い煙が立ち上って消え失せるかのようして、ユージーン・マクラクランが読書室から出て行った。
そしておそらくは、その場でそのことに気づいた唯一の人間であったろうコーネリアス・ウォーレンもまた、部屋を後にする。だがそれは、ユージーンの「後を追った」とは見えない、絶妙な頃合いを見計らったものだった。
「あんな与太話……談話室でやればいいことだ」
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