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「うん。定ちゃんのおとっつあんは、商売を休んで江戸中を探してる、おっかさんは毎日、泣いてる。おいら、定ちゃんに会いたい、また、一緒に遊びたい」
子供達は、おいおいと泣き出しました。熊五郎は、それを痛ましげに眺めます。
「その蕎麦屋に、なにか変わったところはなかったかい」
「二人で屋台を引いてた。顔が似てたから多分、親子だよ」
「親子の蕎麦屋、親子蕎麦か」
与太郎達は礼を言って、子供たちと別れます。
「熊五郎、親子の蕎麦屋を探すよ」
それから数日後、与太郎達はそれらしい蕎麦屋を見つけました。与太郎達が見張っていると、しばらくして、食い終わった客を残し蕎麦屋は次の客を探して往来を流します。
「熊五郎、あの蕎麦屋の後をつけてくれ」
「へい、親分、合点だ」
与太郎は十手を見せながら客に話しかけます。
「お兄さん、今、手繰ってた、あの蕎麦屋について聞きたいことがあるんだ」
「あの蕎麦屋の事を? 別に普通の蕎麦屋ですよ。いや、普通じゃないか」
「どう違うんだい」
「美味すぎるんですよ。あれは江戸一、いや日本一の蕎麦です」
「以前からそんなに美味かったのかい」
「……言われてみれば、以前も不味くはなかったが、今とは比べ物にならねえ。……そうだ、一月くらい前に急に美味くなったんだ」
「お兄さん、ありがとう。邪魔したね」
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