第1章

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 過去の私が、動画に映る。 『いえーい、めちゃ楽しんでまーす』 『きゃははっ、ね、これ撮れてる? 撮れてる?』 『撮れてるよ。わたしの腕信じてよ』 『所詮、なんちゃってカメラマンだしなぁ』 『ひどいよー』  十代の私は中学のときの友達と、お菓子を食べながら談笑していた。  この頃の私は脳みそがほんとに入ってたのかというくらいバカだけど、いや、今もバカか。経済学でケインズの話をされても、見えない手なんて痴漢し放題ですね、と見当違いのムカつくことしか言えない。十四歳から十年間、私なりに経験値を積んだつもりだけど、大して変わっていない。覚えたのはもう結婚しないとやばいだとか、友達で漫画家になると言った奴が、ダメな男と付き合って人生を棒に振ったっとかいう噂を聞いて、私は、それを聞くだけの傍観者なんだなということだ。  実家は埼玉で、働く先は東京。  といっても、埼京線で四十分くらいだから大したことない。人生の岐路に立つような一大決心をしたわけでもなく、上京する際に母の作った弁当をもらって涙しながら寝台列車にゆられるなんてことはなかった。コンビニに行ってくるように気軽に家を出て、で、たまたま家に帰った。 「お前は、昔からやんちゃだから。父さん心配だよ。嫁の貰い手がいるかどうか」 「そんなこと心配しないでよ」  父が入院したのだ。  父は六十代。  私の年齢からしたら老けすぎとよく言われるが、私は三人兄妹の末っ子である。他は私とは違って父の若い頃や中年時代を共に過ごしたかもしれないが、私にとっての父は生まれたときからおっさんで、二十四になって、白髪としわが目立つようになった父だった。  病室。  白く、三、四人が同居してる部屋。そこに父はいた。カーテンでさえぎられただけの部屋。父は老いてるが、同居してるのは老人ではなく、若者もいる。何でも、自転車に轢かれて足を骨折したんだとか。 「いやぁ、情けない。まさか、自転車で骨折とはな」 「でも、ムカつく。やったの中学生でしょ? ほんと、人の親を轢いておいて」  まーまー、と父は言った。いや、何がまーまーだ。実の父親を骨折させられて、良い気はしない。  いや、その中学生のことも考えてしまう。もし、のちのちに中学生が犯人となってみんなに知れわたって最悪の学校生活を送ったらどうなるとか。いや、そんなこと知らんがな。父は甘すぎるんだ。
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