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「父さんも悪かったんだよ。曲がり角でよく左右を確認してなかったし。雨だったから、周りがよく見えてなかっただろ」
「だけど、轢いたまま去ってったのはひどいでしょ」
「まーな。……でも、ずっと恨み続けるのもそれはそれで大変だよ」
と、父はいった。
「だから、いいんだ」
私には、あんまりよくないんだが。
002
大学を卒業し、二年間をOLで過ごした。
最初は公務員にも憧れた。毎日定時に帰れるイメージがあったんだ。実際はそんなわけじゃないらしいけど。
ともかく、当時の私には大して夢がなかった。キラキラした二十代、新入社員なのに可愛げないが、給料もらい、結婚し、あとはのびのびと暮らしていけたらな、と漠然と考えていた。
だがまぁ、働いてた会社が倒産し、私は二年目でプーちゃんになってしまったのである。
「ごめんね。うち、やっちゃった」
小さな会社だった。
ネットショッピングのサイトを開いており、そこで商品を写真撮影し、じゃんじゃん売るぞーとがんばっていた。だが、倒産した。理由は分からない。社員のみんなが何でですか、どうしてですかと言ったが、おそらく理由は社長の愛人のせいとか、色々噂はあったが、ともかく金がなくなったらしい。お金。金。世の中、諭吉さまがすべてだ。諭吉さまが支配し、諭吉さまが動かしている。それを過去の私は、よく分かっていなかった。
昔、同じクラスの友人でチトちゃんという子がいた。
彼女は髪を二つに結んで、穏やかな表情やら柔らかい物腰など親しみやすい子で、中学生という微妙な思春期の男子にも評判が高く、サッカー部の先輩にも付き合ってくれと言われたらしい。一応付き合った。だが、すぐに別れた。デートしてすぐにセックスしようと言われ、ブチギレて顔面パンチしたんだとか。それ以来、仏のチトちゃんともみんなに言われていた彼女は、阿修羅と評判になったのだ。
いや、これれじゃない。ごめん、チトちゃん。あんたは関係ない。えーと何だっけ。
そうだ、一万円を拾ったんだ。
おいおい、チトちゃんの話題はどっから来たんだという話だが、あのときはチトちゃんもいたのか。他にも友人でちょいとオタク気味のキーちゃんと、帰宅途中に一万円拾ったんだ。当時の私たちにとっては、ジャングルの大秘宝なみの価値があった。諭吉さま。
このときは知らなかった。
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