第1章

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「父さんも悪かったんだよ。曲がり角でよく左右を確認してなかったし。雨だったから、周りがよく見えてなかっただろ」 「だけど、轢いたまま去ってったのはひどいでしょ」 「まーな。……でも、ずっと恨み続けるのもそれはそれで大変だよ」  と、父はいった。 「だから、いいんだ」  私には、あんまりよくないんだが。  002  大学を卒業し、二年間をOLで過ごした。  最初は公務員にも憧れた。毎日定時に帰れるイメージがあったんだ。実際はそんなわけじゃないらしいけど。  ともかく、当時の私には大して夢がなかった。キラキラした二十代、新入社員なのに可愛げないが、給料もらい、結婚し、あとはのびのびと暮らしていけたらな、と漠然と考えていた。  だがまぁ、働いてた会社が倒産し、私は二年目でプーちゃんになってしまったのである。 「ごめんね。うち、やっちゃった」  小さな会社だった。  ネットショッピングのサイトを開いており、そこで商品を写真撮影し、じゃんじゃん売るぞーとがんばっていた。だが、倒産した。理由は分からない。社員のみんなが何でですか、どうしてですかと言ったが、おそらく理由は社長の愛人のせいとか、色々噂はあったが、ともかく金がなくなったらしい。お金。金。世の中、諭吉さまがすべてだ。諭吉さまが支配し、諭吉さまが動かしている。それを過去の私は、よく分かっていなかった。  昔、同じクラスの友人でチトちゃんという子がいた。  彼女は髪を二つに結んで、穏やかな表情やら柔らかい物腰など親しみやすい子で、中学生という微妙な思春期の男子にも評判が高く、サッカー部の先輩にも付き合ってくれと言われたらしい。一応付き合った。だが、すぐに別れた。デートしてすぐにセックスしようと言われ、ブチギレて顔面パンチしたんだとか。それ以来、仏のチトちゃんともみんなに言われていた彼女は、阿修羅と評判になったのだ。  いや、これれじゃない。ごめん、チトちゃん。あんたは関係ない。えーと何だっけ。  そうだ、一万円を拾ったんだ。  おいおい、チトちゃんの話題はどっから来たんだという話だが、あのときはチトちゃんもいたのか。他にも友人でちょいとオタク気味のキーちゃんと、帰宅途中に一万円拾ったんだ。当時の私たちにとっては、ジャングルの大秘宝なみの価値があった。諭吉さま。  このときは知らなかった。
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