第1章

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 諭吉さまは一枚じゃ意味がないんだよ。それじゃ、家賃も電気代も水道代も、あ、いや、片方ずつなら払えるか。家賃は無理か。ともかく、諭吉一枚なんてそんな大秘宝じゃないんだぜ。これが言いたかった。だが、当時の私たちはそんなことおかいまいなしに、お菓子買ったり、好きな漫画買ったっけ。あはは、交番届けろよという話だが、だって諭吉さまが全裸で横たわってるんだからね。そりゃ、使っちまうよね。いや、反省反省。大人の今なら交番届けると思う。多分。  ま、一万なんて大した額じゃなく、お前らの学費も払えないぞという話だが、当時の私たちは知らんかった。それ以降、豪遊した。カラオケに毎日行っては、流行歌やキーちゃんはアニメソング、チトちゃんは意外とヴィジュアル系歌ってたっけ。意外すぎだぜ、チトちゃん。仏様は悪鬼羅刹のごとく阿修羅となって、『DIRENGREY』というバンドのを歌ってた。私はよく知らないが、臓器がいっぱい出てた。  話が大分それた。  私は何を言いたかったんだっけ。そうだ、諭吉さまは大事。金で人が買える。いや、これは物騒だ。ともかく、お金さまは大事ですよ、というのが言いたかったのだ。  ともかく、お金さまがなくて、うちの会社は倒産した。  それ以降、私はお金に困る日々――というわけでもなく、ネットで見つけた梱包のバイトしながら、プーからフリーターに昇格し、家賃と電気代と水道代とエトセトラ、プラスアルファを稼ぐために奮闘している。貯金はない。誰か結婚してくれないかな。生活費稼ぐだけでもしんどくなってきた。  そんな、毎日である。  で、父が入院したんで、実家に帰ってきた。母は相変わらず元気で、私や兄弟二人を生んだにも関わらず、ピンピンしてる。カルシウムとか、今でも相当高そう。日帰りにしようとしたときも、泊まっていきなさいと言われ、特製の麻婆豆腐やら鶏肉の唐揚げやらをご馳走された。カロリー高いなと思いつつ、遠慮なく頬ばる私。 「あんた、東京行って良い人見つけた? 早めに結婚しないと色々大変だよ」 「分かってるよ。心配ありません」  心配大ありだ。  今の私には何もない。  003  過去の動画を漁ったのは、夜になってから。
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