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「どうした? なんかいた?」
「……いや、あそこ」
俺が指差した先に初音さんがいた。思った通り徹也の表情が凍り付く。
初音さんは彼氏と一緒に歩いていた。背が高くて浅黒い肌で眉の太い精悍な顔つきをしている。当たり前のことだが、何処をどう見ても女の子には間違われない類の顔だ。
「ああいう人が好みだったんだな。ハッスル姉ちゃん」
「……そ、そうかな」
俺は曖昧に頷く。もうどうしていいか分からない。
俺は必死で徹也から目を反らした。
俺は怖い。今、徹也がどんな表情をしているのか見るのが怖い。
そしてまた胸が痛くなる。
ズキンズキンと痛くなる。
これは何だろう。何の痛みなんだろう。
もしかして、これが失恋の痛み。これが失恋の痛みなんだろうか。
え?
失恋って、誰の? 誰が誰に対しての失恋なんだ?
徹也の?
それとも俺の?
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