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創はこれでも、以前は夢を追うストリートミュージシャンだった。
高校を卒業してから進学も就職もせず、全ての時間を音楽に投じた。
自分に才能があると信じて疑わず、腐敗した音楽業界に革命を起こすべく、日々戦った。
海外のマイナーなミュージシャンから影響を受けた、哲学的で難解な歌を、
拙いギターと、音程のずれたボーカルに乗せ、毎夜公園の片隅でかき鳴らした。
いつも人が集まるのは、恋だの愛だの耳触りが良いだけの歌をがなり立てる、
流行や商業主義に乗っかった、中身がカラッポの似非ミュージシャンにばかり――。
そう考えていた創は、自分の信じる音楽しか演らないと心に決めていた。
創の周りには、いつも誰一人として集まらなかった。
前を通り過ぎる人間は、ゴミを見るかのような目で一瞥した。耳を塞ぐ者もいた。
唯一立ち止まった女性からは、「その騒音を今すぐ止めて下さい」と吐き捨てられた。
それでも創は、歌う事を続けた。いつか、誰かの耳に留まると信じていた。
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