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谷間から吹き上げる強い風に圧倒されそうになるのを堪えて、ヒンニィは谷底を覗き込む。
覗き込んで見ても、肉眼では谷底に流れてるはずの川の流れを確認する事は出来ない。
それほどに深い、谷底に架かるつり橋のたもとにマリアゴルド国の王女ヒンニィはたった1人で佇んでいた。
ここは、マリアゴルド国と隣国マリアテレザ国の間に位置する「龍口の谷」と呼ばれる国境の渓谷で、名前の通り、深い谷底からは時折龍が唸り鳴くような耳障りな音を立てて風が地上へと吹き込んでいた。
「お兄様はここで行方不明になったのね。」
ヒンニィはそう独り言を呟きながら、再度谷底を見やる。
ヒンニィの兄マリアゴルド国の第一王子のヒルフィは3日前、隣国のマリアテレザ国を表敬訪問した帰りにこの龍口の谷のつり橋を渡る途中に谷からの強風に煽られてバランスを崩し、そのまま谷底へと落下し、その後マリアゴルド国へ帰る事はなかった。
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