163人が本棚に入れています
本棚に追加
「ダメよ。ここは危険なんだから、余計な事は考えないでとにかくお兄様の消息の手がかりを探さないといけないんだから。」
ヒンニィがぶんぶんと頭を振って、気合いを入れ直した時だった。
一段と強い風が凄まじい音を立てながら谷から吹き上げてきた。
ヒンニィは風に耐えようと壁にピタリと体を寄せて出っ張った岩に両手で必死にしがみついていたが、ヒンニィより岩肌が強風に耐えられず、ガラガラと脆い音を立てて崩れてしまった。
「!?」
ヒンニィは驚いてすぐに近くの木の根元を掴もうとしたが、間に合わず右手が空を切った。
それと同時に、支えるものがなくなったヒンニィの細い体が背中から谷底の方へと崩れて落ちて行く。
実際は一瞬の出来事なのに、すべての景色がスローモーションに見える。
空中に放り出されたヒンニィは為すすべもなく、条件反射で瞳をぎゅっと瞑った。
それだけがこの一瞬で出来る唯一の事だった。
最初のコメントを投稿しよう!