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あぁ、お兄様もこんな感じで谷底へ落ちてしまったのだろうか。
本当の恐怖心がやってくると逆に冷静になれるものなのだとヒンニィは思いながら、岩を掴む事を諦めようと決心した時だった。
落下して行く時特有の異常に重力を感じる感覚が全くなくなり、代わりに自分のお腹の辺りが熱く締め付けられる様な感覚がやってきた。
ヒンニィが驚いてぎゅっと瞑っていた瞳をゆっくり開けると、すぐ目の前に透き通ったダークブラウンの瞳の、飄々とした表情をした青年の顔があった。
「間に合って良かった。大丈夫?」
青年はそのダークブラウンのクリッとした瞳を瞬きさせながらヒンニィの表情を覗き込む。
青年は左手でヒンニィのお腹の辺りを抱き抱え、右手一本で先程ヒンニィが掴み損ねた木の根を掴んで谷底へ落ちるのを阻止してくれていた。
バランスを取りやすい様に、青年はくるりと体勢を変えて両足を岩壁へと着き、自身と岩壁の間にヒンニィを挟み込んだ。
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