最後の愛

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 そう、母はもうこの世にいない。  私の母だけではなく、母親というものはもういないのだろう。  地球を襲った謎の病。二十歳以上の人間が次々に血を吐き、死んでいく奇病。特に、経産婦の発症率が異常に高い病。  大人が減った世界では、経済はうまく回らない。何も出来ない。  残された人々は、未来に希望を託すことで安心することにした。  祝福された子供たち。選ばれた百人の子供たちはコールドスリープへ。宇宙を漂い、いずれ辿り着くであろう。人類の新しい、安住の地へ。  無責任に彼らは未来を託した。私達、祝福された子供たちに。  五歳から十二歳程度の子供を眠らせ、宇宙空間を漂わせ、本当に安住の地が見つかると思ったのだろうか?  そんなもの、なかった。  辿り着いた先は人間が住めるような場所ではなかった。不毛な土地であった。  それでも、私たちのお世話係であるアンドロイド・ナニー達は、私達を目覚めさせ、プログラムどおりに世話をさせた。  最初はよかった。最初はまだ、自分の誕生日にバースデーメッセージを見る余裕があった。  でも、何も無い土地で、備蓄された食料は減っていくばかりで。  幼い子供から死んでいく。  殺されていく。大きな子供に。  私が今日まで生きてこられたのは、様々な偶然のおかげだろう。大きな偶然は、何故かナニーに好かれ、溺愛されていたから。  バグともいえる、それがなければ、私は最後の一人にはならなかっただろう。  本当の私はいくつなのだろうか。もう、よく分からない。私は他の子供が知らないことも、ナニーに教わった。達観した、というのだろうか。  そのナニーも先程、壊れた。残っていたもう一人に壊された。最後に残った、同じ人間を私は殴り殺した。最後に一人、殺した。  これで残っているのは私だけ。  そして、私はもうすぐ死ぬ。毒性のある水を飲んだから。  無責任な大人の、希望は潰える。  それでも、このビデオメッセージだけは残り続けるであろう。この機体が滅びるまでは。  もう一度、再生する。  これが最後の、愛なのだ。
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