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「六歳のお誕生日おめでとう。これでもう、お姉さんだね」
「十二歳のお誕生日おめでとう。だいぶ大人っぽくなったんじゃない?」
「二十歳のお誕生日おめでとう。これで大人の仲間入りだね」
六歳のときから始まったメッセージは、二十歳の分が最後だった。
暗くなったモニターには、仏頂面の私が映る。
モニター上でたどたどしく誕生日しゃべっていた女性。彼女が自分の母親だという実感がわかない。幼い時に会っただけだから仕方がないだろう。
メッセージをもう一度、頭から再生する。
メッセージは全て同じだ。お誕生日おめでとう、大人になったね、それじゃあまた来年。同じ内容の繰り返しだ。
同じ日に撮ったのだろう。母の服も一緒なので、余計変化がないように思える。作り物めいている。
でも、まあこれはホンモノだろう。
祝福された子供たちに贈るバースデーメッセージ。個別に撮る余力がない家庭に向けて、テンプレートメッセージを販売していた会社もあったと聞く。当たり障りのないメッセージで出来た、大量生産品。他の子供と同じメッセージ。
子供への最後の愛情を! そんなふうな謳い文句だったと、ナニーが言っていた。どんなことでも、商売にする人間は浅ましいですね、とも言っていた。
私はそれを見たことがないが、金を取って売っていたぐらいだ。もう少し各年にバリエーションをつけるぐらいのことはするだろう。
私の母親は、大量生産に劣るぐらいのメッセージしか残せなかった、ということだ。
でもまあ、仕方がないのかもしれない。自分がもうすぐ死ぬとわかっていて、いきなり子供へのバースデーメッセージを残せと言われても、喋ることで精一杯なのだろう。
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