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放課後なので、下校中の生徒が多い。それらの間を縫って学校前の交差点まで出ると一人の背の高い男が学校の女子達に囲まれていた。
「いや、私校長先生のところへ行かなくてはいけないので…」
とかなんとか言って、腕に引っ付いてくる女子をなんとか引き剥がそうとしている。
時折集団から聞こえてくる‘先生’の言葉から、あの人が新しく来た教師とみて間違いないだろう。
僕は迷うことなく、集団の方へ足を進める。
「近江<おうみ>先生。お迎えに上がりましたよ。」
良く通ると言われるこの声を恨んだことは無い。気持ち大きめの声で呼びかければ、集団からの熱い視線…否、人を蔑む嫌な視線が此方へ飛んでくる。
そのなかにひとつ、弾けたようにこちらを見る目がふたつ。
顔をみて、後悔した。
怠け者クソ教師のお願いを聞いてしまったのが運のツキか。
そこには、助かったと言わんばかりの顔をした、アイツ、前世の彼がいたのだ。
驚きと動揺で息が詰まる。
が、いい加減、周りの好奇の目も鬱陶しくなってきた。
思わぬ再会に胸が高鳴るが、コイツはもう、他の女を抱いた身だ。前世のことなど、とうに忘れてしまっているだろう。
ひとつ、小さく息を吐いて「先生」に呼び掛ける。
「志田先生がお呼びですよ。」
志田とは、あのナマケモノ教師のことだ。さっき近江と名乗るコイツは校長に呼ばれたと言っていたが、まぁ、馬鹿な周りの女子らには気づかれまい。
「早くしてもらっても良いですか?」
いかんいかん。早く帰りたすぎてキツイ口調になってしまった。ビークール、ビークール。
「は、はい。じゃあ君達、そう言うことだから、またね。」
と言って、アイツは此方へ向かってくる。
周りの女子はあの子、私達が羨ましくてそんな嘘言ってるのよとか、そんな奴についていったら何されるか分かったもんじゃないのよ!!とか言っている。
揺らぐ、アイツの目。
早くしてくれ。僕はコイツをどうする気もないし、むしろその言葉はあのナマケモノ教師に言ってやってくれ。
「先生。」
語気を強めて言えば、今度は迷いなく此方へ向かってくる。
「参りましょうか。」
「お前…」
スタスタと前を歩く僕の耳には、近江が呟いた前世の言葉など、聞こえなかった。
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