甘く熱い余韻と切ない現実

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そんなことを言う高柳を見て、目が見開いたまま動けなくなった。 言った本人は俺から視線を逸らして、灰が細長くなっていく煙草を吸うこともなく斜め下を見つめている。 まさか、高柳から俺を心配する言葉を聞ける日が来るとは思わず、こんな時なのにニヤついてしまいそうになった。 「言っておくが酒が不味くなるという意味だからな」 「わざわざ付け足すなってー。大丈夫、大丈夫! お前の優しい心、俺にばーっちり届いたから!」 「ふざけるな」 この雰囲気の中、つい軽い空気を作ってしまうのが俺の悪い癖だ。 高柳は照れくさそうにした顔から一転、真面目な顔つきにすぐに変わる。 「俺が確認したいのは、お前の決心が固いかどうかだけだ。……本当にもういいのか?」 もういいのか? と聞かれた意味は、きっと美子ちゃんのことを本当に諦められるのかどうかということなんだろう。 そう悟った瞬間、吐くほどの苦い感情が一気に込みあがってくる。
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