甘く熱い余韻と切ない現実

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ここでガキみたいに大声で嫌だと叫ぶのは簡単だ。 でも、そんなことはできないのはわかっているし、今の状況をどうにかする勇気も持てない。 だから、俺は誰からも「臆病者」と言われ続けるんだろうなと、つくづく実感した。 「……なー、高柳。お前、結婚してよかった? 後悔してない?」 質問に質問で返すことなど、コイツが一番嫌うことだと知っている。 でも、今の高柳はいつものように怒りもせずただ黙って考え、灰皿に煙草を押し付けると、優しい表情になる。 きっと、凛子ちゃんの顔を思い浮かべているんだろうなとすぐに気付くことができる、そんな顔つきだ。 「そうだな、後悔しているといえば後悔している」 「えっ? マジで?!」 「結婚前に妻をちゃんと口説けなかったからな。そのことに一番悔いが残っている」 「……なんだそりゃ。はいはい、ごちそうさまでした」
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