甘く熱い余韻と切ない現実

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高柳に言われるまでもない。 俺はこの結婚の決断に後悔ばっかで美子ちゃんにも未練たらたらだ。 彼女の方はどうだろう…… あっさりと「やっと一条から解放されたー!」とか凛子ちゃんに言ってたりするのかな。 それとも「ちょっと好きになりかけてたのよね」とか嬉しい言葉を言ってくれてたりするだろうか。 そして、新しい恋でも見つけていたりするんだろうな。 「なー、高柳。もし美子ちゃんが彼氏を作って寿退社するとかなったら、俺に教えてくれよ。誰よりも大きな花を贈るから」 「迷惑でしかないな」 「そうか、奪いに行っちゃおっかなー。ほら、映画みたいに」 「それこそ本当に大迷惑だ」 苛立ちを含ませた返事をする高柳の言葉に笑いで返し、俺は一口も飲まずにいたグラスビールを手に取る。 そして「おめでとー。いい親父になれよ」と祝福の言葉を伝え、グラス同士の細い音を鳴らせてこの日、初めての乾杯をした。
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